みならいの放浪記 1999 葉月・第5回
〜東京から新潟へ〜

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1999年8月28日の日曜日,天気晴れ。東京駅にいったん集合して,小岩駅から徒歩15分のところにある「アーバンプラザ小岩」を目指す。今日はここで集まってクイズ大会という名のもとにゲーム大会をして大騒ぎするのである。

この集まりではクイズはあくまで盛り上がる手段であり,それ以外のなにものでもない。その証拠に,いきなり始まったクイズが「○×大相撲」という名で,まず○と×を24問分書き,解答用紙を回収してから各自が決めておいた○×クイズを出題するという恐ろしいクイズ。

○と×を書く時点では問題は発表されていない。それどころか,自分が決めておいた問題が何問目になるかも知らされていないので,要するにすべてを運が支配する(駆け引き,なんて言葉も存在しない!)クイズ,もとい,ゲームである。ちなみにこのとき私が出題した問題は

「現在私の財布の中には,プリペイドカード・回数券カードの類が15枚以上入っている,○か×か?」

で,恐ろしいことに○であった,内訳はテレホンカード,オレンジカード,スルッとKANSAIのカードが各3枚,京阪電車の回数券カード2枚(平日用と土休日用),SFメトロカード(東京の地下鉄のプリペイドカード),レオカード(西武鉄道のプリペイドカード),和歌山バスの回数券カード,大学生協のプリペイドカード。そのあとだいぶ減ったんだけど,またラガールカードを買い込んだりしたおかげで増えつつある。そのほか,真面目な問題よりフマジメな問題の方が圧倒的に多いのがこの集団の特徴である。

さすがにレオカード・SFメトロカードは,東京へ行くとき以外は机の引き出しにしまってあります。でも,スルッとKANSAIのカードなどは入ったままです。

21時の閉館時間ギリギリまで盛り上がり,また小岩駅に戻って「夕食でも」という話になるが,適当な店が見つからず,8人ほどで松屋に入ることになる。実は私は松屋の牛丼も初体験(吉野屋の牛丼は何度か食べたことがある)だったのだが,吉野屋よりはかなりおいしいと思った。なにより嬉しかったのは,100円のサラダが山盛りだったこと。旅に出るとどうしても野菜が不足しがちになるけれど,コンビニなんかのサラダは量の割に値段が高くて敬遠してしまう。100円でキャベツ1つかみを始めとする野菜が食べられるというのは嬉しい。

みんなと一緒にのんびり牛丼とサラダを食べていると,ある人が「ムーンライトえちごに乗るんだったら時間大丈夫?」と言ってくれた。私は小岩から新宿なんて黄色の電車(と橙色の電車)ですぐそこだと思っていたのだけれど,実は小岩から御茶ノ水まではけっこう距離があるし,第一この時間の黄色の電車は三鷹行でも中野行でもなく御茶ノ水行なのだ。

慌ててみんなに別れを告げて,駅に戻るとちょうど 22:22 発の御茶ノ水行がやってきた。ちらっと駅の発車時刻表を見るともう10分毎だったから運がいい。乗り込んでから担いでいるJTBの大形時刻表をめくると,列車の正確な時間は書いていないけれど,所要時間から勘案するに御茶ノ水駅でうまく電車が来ればいいが,来ないとギリギリになってしまう。

そこで私は一計を案じた。「ムーンライトえちご」新潟行は新宿を出たあと,池袋を経由して赤羽に出る。この御茶ノ水行を秋葉原で捨てて,京浜東北線を使って赤羽で「ムーンライトえちご」を捕まえようというのである。しかし,本当は小岩でコンビニに寄って飲み物などを仕入れて,万全の体制で夜行に乗り込もうと思っていたのに,諸般の事情により手ぶらである。このままでは明日の朝までに干上がってしまうおそれがある。(笑)

今日の行程では「青春18きっぷ」のモトがとれないので使っていない。持っているのは「小岩→高崎」の学割乗車券,大都市近郊区間内相互発着なので途中下車前途無効。そうだ,上野駅なら構内にコンビニくらいあるに違いない!

というわけでまた時刻表を繰ると,上野からの東北本線の列車はすべて時間が載っている。結局,秋葉原 22:38 着,京浜東北線に乗り換えて上野に 22:43着。期待どおり構内にあったコンビニ(ただし,私がこれまでに見たどのコンビニよりも混んでいて,おにぎりとかパンとかはもちろん,缶ジュースの棚なども売り切れの商品が多かった)で500ミリリットルのお茶を買い,22:51 発の列車で赤羽に 23:02 着。

「ムーンライトえちご」は 23:26 発なので,この間にトイレで身支度を整える。どうせ「ムーンライトえちご」に新宿から乗っても,赤羽までの間に眠りにつくのはほぼ不可能(車内改札が来ない)なので,お茶を手に身支度まで整えて乗り込めるというのはありがたい。

ところが「ムーンライトえちご」は遅れているという。そういえば会場で盛り上がっている間,外から激しい雨と雷の音が聞こえていたけれど…… あとでニュースを確認すれば,変電所に雷が落ちたとかであちらこちらでかなりダイヤに乱れが出ていた模様。結局10分遅れで 23:36 ごろ到着したころには上野で買ったお茶はもう飲み干していた。乗り込んだとたん車内改札が回ってきたので喜んで寝る体勢に入った……かと思うと,もう記憶がない。

目が覚めたら 5:00。新潟着は 5:06 だからちょっと遅い。いつも夜行列車から降りる前には洗面台で顔を洗って歯を磨くのだが,そんな時間ないではないか。しかも,新潟では忙しい。乗りたい列車は 5:22 発の長岡行なんだけれど,この16分の間に朝食を調達しておかないと10時過ぎまで飲まず食わずになることが断言できる。

この列車に乗り遅れると今日の計画はずたずたである。幸い,「放浪記 1999 弥生 第3回」の冒頭で新潟駅近くのコンビニの場所はわかっている。が,前とは違い,時間は16分しかない。で,ホームからそのローソンまでは近いように思えるけど片道7分ほどかかるのである。ホームから改札までも遠いし,改札から駅の外に出るまでがまた遠いのである。16分の接続時間で片道7分のコンビニを往復する。理論上は可能であるが……

せわしないながらもなんとか食料の調達に成功し,発車寸前の長岡行に乗り込んで食べる。長岡では上越線水上行に9分の接続。一路来た道を戻っているわけである。目指すは谷川岳の麓にある土合駅。一度来てみたかったこの駅に8:35 に着く。今日は月曜日だから,駅の近くで貯金でも……

駅の周辺には,民家は一軒もない。5分ほど歩いたところに,ペンションが2軒。

というような田舎だ。さて,土合駅は妙な構造をしていることで有名である。だからはるばるやってきたのだ。上り上野方面のホームは何の変哲もない。いや,よーく見ると下りホームが隣にないから「何の変哲もない」というのは嘘だ。下りホームはトンネルの中。

土合は群馬県で,この新潟側には谷川岳の下を貫くトンネルが控えている。このトンネル,上り線用と下り線用で掘られた時期も違うし,場所もかなり違う。その結果,土合駅の上り線は地上にあるのに対し,下り線は深いトンネルの中。下り線のホームまで行くには階段を延々10分ほど下らなければいけないので,時刻表に

「土合駅は,下り列車に限り発車10分前に改札を打ち切ります」

と書かれていた。現在はもちろん無人駅なので

「土合駅は,改札から下りホームまで約10分かかります」

と書いてある。さて,行こうかと思ったら駅前に乗用車が停まり,家族連れが下りてきて「誰もいない!どうやって乗るんだろう?」とか話をしている。実は谷川岳ロープウエイの乗り場と勘違いしていたらしいのだが,せっかくだから珍しいモグラ駅を見ていったらどうですか,と案内する。この家族連れはもちろん,下りホームに向かう階段の上で記念写真を撮って帰ってゆき,私はその階段を下る。驚いたことにその階段の脇に

将来エスカレータを設置するスペースが設けてあった。

現在の寂れようからすると,この駅にエスカレータが設置されることは絶対にないだろう。けれど,そんな長いエスカレータ,ぜひ乗ってみたかった。ちなみに,現在は途中何カ所かベンチが置いてあって休憩できるようになっている。私はこの階段を下るだけだが,反対に上野方面から来てこの駅で降りた人はこの階段を登らないといけないのだ!

9:54 に長岡行がやってきて ――といっても,さっきの電車が水上まで行って引き返してきただけの話だが―― 私ともう1人のお客を乗せていく。もちろん,トンネルのどちらを見ても出口は見えない。やっとトンネルを出ればそこはまた新潟県。越後湯沢はもうすぐそこ。隣に座っていたおっさんが田んぼを指さして「この辺の米は高いぞぉ!」という。「魚沼産コシヒカリ」だ。つづく。


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