みならいの放浪記 1999 如月・第3回
〜和歌山の悪夢〜

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《前回までのあらすじ》

2月24日水曜日,9:27に本日の一番列車で水軒に到着した彼は,5分後に帰る2両の列車と2人の乗務員,それに1人の乗客を見送って,一人ぼっちになってしまった。野生の勘とかいうやつでなんとかバスの通りそうな道を見つけた彼は……
愛と感動のスペクタクル巨編(大嘘)


その道は,バス道だった。なんとならば,100メートル先にその道を見つけたとき,確かに1台のバスが左から右へと走り去っていったからである。しかし,100メートル歩いてその道との三叉路に着いた彼は戸惑った。なんとならば,はサルの顔。

よくわかる(?)解説。 「なんとならばはサルの顔」というのは私の高校の数学教師K先生の 名言である。「ゆえに」は茶畑の記号∴で,これをひっくり返したら 「なんとならば」となります。念のため。

バス停がないのだ。左の方は堤防に沿った道だが,見渡す限りバス停はない。右の方は和歌山市中心部と反対の方角だが,道は曲がりながら登っていて見通しが悪い。究極の選択だが,右の方に50メートルほど歩いてバス停を発見した。

が,しかーし。

バスはおおむね1時間に1本しかなかった。次のバスが来るまで40分もある。市内からそんなに離れていないし,10分に1本くらいバスが来ると信じていた彼があさはかだったのである。雨の中,屋根もないところで40分も待つことがどれだけつらいか,語るまでもない。それ以前に,彼の旅行の計画はこんなところで40分もバスを待つことを想定していない。

こんなとき,彼にできることは一つしかない。歩くことだ。和歌山市中心部の方角(と彼が信じる方角)に向かい,あわよくば途中から合流してくるバス路線を利用する。

堤防に沿ってとぼとぼと,しかし急ぎ足で歩く彼は,通る車を注意深く観察していた。タクシーが来たなら利用してもいいかな,と考えていたのである。しかし,流しのタクシーが来るほどここは都会ではない。客を乗せたタクシーさえ来なかった。

20分ほど歩いただろうか。突如,太めの道に合流し,バス停が現れた。長路というバス停である。しかも,もうすぐバスが来る。ただし,南海和歌山市駅行きである。この後の予定によればJR和歌山駅に出るべきなのだが,そちらに行くバスはまだ当分来ないので,9:58に来たバスに乗る。

バスは12分走って,南海和歌山市駅前に着いた。しかし,運賃表の数字は単調に増加を続け,着いたときには360円になっていた。さすが田舎のバスだ。和歌山市を都会だと思っていたのがまずいらしい。

さて,私は10:36にJR和歌山駅を発車する列車に乗る計画だった。和歌山市駅と和歌山駅の間はJR紀勢本線(の支線)で2駅,所要5分。この間を走るバスも多い。まず駅に行ってみると,次の和歌山行きは10:55だった。そう,1時間に1本しか走らないのだ。仕方なく,バス乗り場に引き返すと,バス停には長い列ができていた。時刻表を見ると10:12の次が10:20。どうやらまだ12分のバスが来ていないらしい。14分にバスが到着し,乗り込んだ。

運転士の手元を覗き込むと,確かに12分のバスだ。なぜか観光バスのお下がりの車両で,座席は上等だが通路が狭い。混む路線にこんな車両を入れるのは間違っているぞ,と思いながら全員乗り込むのを待つが,全員乗り込んでも発車する気配がない。運転士は「いつ発車するのか」と聞く乗客に「20分」と答えている。いつの間にか1本運休になったらしい。しくしくしくしく。貴重な時間がぁ。

次のバスが来たので,19分に追い出されるようにして発車した。しかし,この路線は繁華街を通っていくので,信号にひっかかったり路上駐車に邪魔されたりしてなかなか進まない。しかも,乗り降りが激しい上に,通路が狭いのでさらに時間がかかる。そのうえ,210円均一かと思ったら,もうすぐ和歌山駅に着くころに220円に値段が上がる。

そんなこんなで,バスがJR和歌山駅前に滑り込んだのは,なんと10時36分のことであった。淡い期待をもちながら,駅に駆け込む。こんなときに限って,目的のホームは向こうの端。ホームに登ったときには,もう列車は影も形もなかった。

次の列車は30分後である。一応説明しておくと,ここはJR和歌山駅だが,9番線だけ間借りするように南海貴志川線が発着しており,目的はこの貴志川線である。仕方なく,構内をぶらぶらして過ごす。すると,日根野電車区の113系のくせに湘南色というわけのわからない列車が発車して行く。

時間が来て,11:06の貴志行きは2両ワンマンで発車した。客はちらほら乗っている程度。なぜかこの沿線には変な名前の駅が多い。伊太祁曽って,読める?

昔は行楽地だった,という話を聞いていた大池遊園を過ぎ,11:37に列車は終点貴志に着いた。和歌山市内で時間をロスしたせいで,遺憾ながら折り返し列車にのって11:43に貴志を後にした。

本来ならこのまま和歌山まで帰らないと後の行程に差し支えるのだが,この時間帯は車両交換のためにふつうの時間帯より1本多く列車が来るという。せっかくなので竈山(この字は正確ではないかもしれない。ドット数の関係で線が足りないかも……)で途中下車する。ちなみに,この駅は「かまやま」と読む。近くに郵便局があったので,ひょっとすると「かまやま郵便局」なんて名前で画数が多いかも……と期待したのだが,和歌山和田郵便局という名前だった。

12:29に和歌山に到着。今度は12:42の和歌山市行きに乗る。フリーきっぷではJRに乗れないから別払いなのだが,バスに乗るよりずっとマシだ。しかも,12:47に和歌山市に着いて,50分にはなんば行きの急行があるから接続もすこぶるよろしい。

実際に和歌山市駅に着いてみると,JRのホームと他との境にもやはり自動改札が設置してあった。和歌山駅でいったん出場してJRのきっぷを買っておいたからよかったものの,知らずに来たらここで時間をロスして,50分の急行に乗れなかったかもしれない。

なんばまでの1時間を居眠りして過ごし(朝早かった上に,前日寝たのは午前2時……)近鉄難波駅へ。わかってはいたものの,南海なんば駅とはかなり遠い。正味7分かかった。上本町まで移動して,14:15発の宇治山田行き急行に乗る。事前の調査によると,この列車は2630系限定運用……というと聞こえはいいが,伊勢中川まで2時間弱,ロングシートで過ごさねばならぬという宣告である。

鶴橋,布施,五位堂,高田,八木,桜井,榛原,室生口大野,赤目口,三本松,名張,桔梗が丘,美旗,伊賀神戸,青山町,上津,西青山,東青山,榊原温泉口,中川。ちなみにこの先止まるのは松阪,伊勢市,宇治山田の順。

途中名張で特急2本に抜かれた。発車まで時間があったのでホームに出て背伸びをしていると,運転士も外に出てきた。彼はタンを電車とホームの隙間に吐いた……はずだったのだが,折からの強風にあおられてタンは電車に付着した。運転士との間に気まずい風が流れたことはいうまでもない。そして,電車がタンをつけたまま走り始めたことは,2人しか知らないはずだ……いや,ここで公になっちまった。

中川で名古屋行き急行に乗り換える。こちらは事前調査で5200系限定運用。5200系というのは転換クロスの車両で,ちょうどJRの新快速と同じような感じの車両。「5200系で行けるなら,特急料金を払う必要はないね」というプランニングだったので,これをはずすわけにはいかない。

がしかーし。

向こうからやってくる列車の先頭形状がなんとなく変。5200系ではない。思い出した。5200系は4連固定で,6連以上で走るときは他の車両もつないで走っているわけだ。慌てて先頭車の停車位置から3両目停車位置に移動し,窓際の席を確保。このへんは事前の情報収集と的確な状況判断のなせる技……ってもんじゃないか。

1時間ほど揺られて,17:12に桑名着。向かい側のホームから17:33に出る大垣行きに乗り換える。3両ワンマン。もう日も暮れて外を見る楽しみがなくなったので,ノートパソコンを取り出して仕事を始める。18:57に大垣に着くまでにかなりはかどった。

さて,第1回に書いたように,今日のお宿は徒歩20分。まだ雨はやまないし,バスで…… バス停は…… どこやぁ。駅前のバスターミナルは名阪近鉄バスしか発着しておらず,実は目的のバスは少し離れた岐阜バスのバス停から発車するのである。

がしかーし。

バスは1時間に2本しかない。そんなもの,「バスに乗ってもらったらバス停の真ん前なんですけどね」って案内するなよ。善後策の検討。目的のバス停,中電前(=中部電力大垣支店前)は3つめである。歩けない距離ではない。それは初めからわかっている。じゃ,何が問題なのか。以下次号。


というと怒られそうなのでもう少し続く。

どっちに向いて歩けばいいのかわからない。

のが最大の問題なのだ。名阪近鉄バスの路線図とか,ふつう駅前にある地図と比べてかなり見劣りがする市内地図とかを見比べて,とりあえずバス停2つ分は駅前の通りを南に直進,と決定。19時を過ぎて店が閉まり,暗くなった商店街を進む。そして,交差点に到着。あとバス停1つ分,どっちへ向いて歩くかが問題だ。

岐阜バスは岐阜駅行だ。よって,岐阜駅の方角,すなわち東に違いない。そう信じてしばらく歩いたが,哀しいかな,バス停1つ分に相当する距離を歩いてもそれらしき場所に着かない。仕方なく,さっきの交差点まで引き返し,誰かに尋ねようか,宿に電話しようかと考える。すると,交差点の反対側に交番があるのを発見。大きな交差点で,横断歩道はなくて地下道があるくらいだから気付かなかったのだが,これはショックである。しかし,地下道を通って行ったら,交番は無人で「電子交番」とかいうコンピュータが置いてあった。もちろん,緊急の用のある人は置いてある電話で連絡すればいいのだが……

張ってあった地図を見て,目的地を探す。なんのことはない。さっきの道をもう少し東に行けばよいのだ。しくしくしくしく。今度こそ,以下次号。


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