2001年の正月を過ぎた頃, 一人の男が旅に出た. 大阪駅から2本の列車を乗り継いでついに北海道に初めの第一歩を記したところまでを書き記した彼は, 仕事に追われ3ヶ月ほどもペンを投げ棄てていた, じゃなかった, キーボードを投げ棄てていた, じゃなかった……
すみませんすみませんすみません.
時は2001年1月6日土曜日. 6:18, 定刻通りにみならいを乗せた急行「はまなす」号は札幌駅に滑るように到着したのであった.
次に乗る列車は8:30の発車である. 乗り遅れるなんていうのは論外であるが, 私のきっぷはあくまで自由席乗り放題なので, 座席を確保するのも重要な課題である.
しかし, それ以上に重要な課題は, 朝食および買い出しである. なにしろ, 昨日の 10:12 に特急「白鳥」号に乗ったまま, 青森駅でも駆け足の乗り換えであったから, 食料も水分も底をついている.
というわけで, まず改札を出て, 本当の意味で北海道の大地に一歩を記そう.
うーん. 寒い. そりゃ当然だ. 目の前にコンビニがあったが, さすがにあったかいものが食べたい. 旅行先での朝食の定番, 松屋はないかな?
と思いながら, 歩道をそろそろと歩き始めた. とはいえ, 歩道には雪がないので安心して歩ける. 車道を横切るときはよく注意しないと転びそうだ.
うーん. なかなか店がないなぁ. と歩いていくうちに, 札幌一有名な観光名所にたどり着いてしまった. いや, 最初から行くつもりでは決してなかったのだが.
「想像していたのと違う」という人が多いのもうなずけるくらい小さい. 美しい建物なんだけど, どうやって撮ってもバックは空ではなく, 他の建物になってしまうのだ. ちなみに, 7時にもなっていないというのに, 2人がかりで庭の雪かきをしておられた. ご苦労様です.
次に出てきたのがテレビ塔. 電光表示が「7:03」という表示をしていて, 朝日をバックに美しくそびえ立っていた. それから, NHK札幌放送局. こちらの電光表示は「-9.1」と書いてあった. そんな数字見せないでくれぇ!
雪祭りで有名な大通り公園のあたり, すなわち札幌市の中心街までやってきた. 空腹もかなり限界に近づいてきた頃に目の前に現れたのはモスバーガーであった.
モスバーガー札幌南1条西6丁目店で暖かいコーヒーで暖をとり, 海老カツバーガーにかぶりつく. うまい. そして, 小一時間の散歩で体がすっかり冷えきっていたことを改めて実感する. よく見れば, この店は24時間営業らしい. 24時間営業のモスバーガーなんか初めて見たぞ.
店の前から路面電車が出ていて, 乗りたいのは山々なんだけど, 残念ながら札幌駅とはまったく違う方向に向かってしまうからまた今度. 少し違うルートで帰り, 途中で北海道庁旧本庁舎を眺める. 通称赤レンガ庁舎だが, これが美しい. 雲一つない青空をバックに赤いレンガが映えている.
というわけで, 期せずして(というところが問題なんだが)大急ぎの札幌観光をすませて札幌駅に戻る. 次の列車も座れないと悲惨なので, ホームに向かう.
今度乗る列車は「スーパー宗谷1号」稚内行き. JR北海道の誇る最新式の気動車を使用して, 札幌から稚内までほぼ400キロを4時間58分で走破するという, 画期的な列車である.
400キロといえば, 東京から名古屋を過ぎて岐阜県の大垣あたりまで行ける距離だ. と比べてみると, 北海道がいかに大きいかが少しでも実感できるかと.
かっこいい車両がやってきて, 無事窓側の席を確保. 定刻 8:30 に札幌を出て, 最初こそ市街地を走るものの, だんだん周りの建物が減ってきて, 列車は速度を上げる.
岩見沢, 滝川, 深川と大きな駅だけに停まったのち, 9:53, 旭川停車. 今日の今日まで札幌と旭川は隣町みたいな感覚でいたけれど, 実際は140キロほど離れていて, 全力疾走の特急で1時間20分はかかるのだ. 140キロといえば, 大阪から西に行けば姫路を越えて岡山県に入ってしまう. やっぱり北海道は大きい.
旭川を過ぎれば車窓は原野と呼ぶしかないような風景になる. 今回の旅にはツーリングマップルという地図帳を持参している. バイクで旅行する人向けに編集されているが, バイクを使わない私なんかにとっても使いやすいし, 持ち運ぶのにも便利な大きさなので, 東北編に続いて北海道編を買って持ってきたのだが, この地図と車窓を比べようにも, 一面の雪景色である.
そのうち, 線路が右に左に曲がるのと地図とを比較して楽しむという不毛な状態になったが, 利点もひとつある. 最高時速130キロでつっ走っているがゆえ, 小さな小さな駅の存在にはなかなか気がつかないのだけれど, 地図を見ていればだいたいの場所がわかるから, 目に入るのである.
とはいえ, そのような駅のほとんどは1〜2両分のホームと, 古い貨車を転用した待合室がすべてだったりするのだけど.
和寒, 士別, 名寄, 美深, 音威子府. 小学生の頃から時刻表や旅行記を読んで憧れていた駅が次々と表われるけれど, どれも想像していたより小さい. 実は街の規模からしたら適正な大きさ, ということがのちにわかるのであるが.
天塩中川(は知らなかった), 幌延, 豊富とくれば, 次は南稚内. そして4分ほどで終点の稚内に到着である.
大阪から列車3本 (まだ青森と札幌で乗り換えただけ!), 実に約1900キロ, 27時間と20分の旅をして, 日本最北端の駅に列車は滑るように止まった. もうこれ以上北に行こうと思っても線路はない. 果てしもなく遠く来にけるかな.
と, きれいにまとめるはずだったのだが, そうもいかない. 実際には, 豊富を出たあたりで私はそわそわそわそわしていたのである. なにしろ,
しているのである. 昨日は20分遅れたのだから5分くらいでぐちぐち言うな, というのは正しいご意見だと思うが, なにしろ稚内では
であるので, 5分遅れたら乗り換え時間は4分しかない. というわけで, 早々に荷物をまとめて席を立ち, ドアが開くと同時にホームに降りて改札口に向かった.
列車本数の少ない駅ではよくあることだが, 改札口は人が1人通れるだけの幅で, 駅員も1人1人のきっぷをじっくりと眺めて回収するのでひどく時間がかかる. 時計とにらめっこしながら駅前ロータリーにバスが……いない.
実は, バスは駅前を右に徒歩1分ほどのバスターミナルに止まっていた. 近いんだけど, 駅の出口からは見えないのでご注意を.
私が乗り込むと同時, 13:37 に発車. 最初は街中を信号にひっかかりながら走っていたが, 南稚内駅 (といっても駅から少し離れているようで, 南稚内で降りても困っていただろう) を過ぎると1本道. 進行方向左側に海を, 右側に原野を見ながらひたすら走る. ときどき集落が現れたり, 自動車学校が現れたり, 空港への入口が現れたりする.
そして, ついに宗谷岬に到着. バスはもう少し先の大岬という集落まで行くが, 私は当然ここで降りる. 所要50分, 1350円だが, 距離もかなりのものである.
本州最北端を名乗っている大間岬 (下北半島の先端) と同じような雰囲気で, バス停を降りると目の前が岬であった. 稚内駅とは違い, ゆっくりと感激に浸ることができた.
日本最北端のガソリンスタンドが「給油された方にホタテの貝殻の最北端到達証明書プレゼント」と書いてあるのをみながら, あとは 14:54 にさっきのバスが引き返してくるのを待つばかり.
さすがに寒いので待合室に入ったら, 地元の高校生の女の子がバスを待っていた. 制服のスカートをかなり短くしており, ストッキングも履いてなかったのには驚いたというか何というか……
→第5回 〜渡道の本来の目的?!〜 へつづく.
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