みならいの放浪記 1999如月・第7回
〜名鉄の広大さ〜

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《前回までのあらすじ》

いつの間にか,3・3・SUNフリーきっぷで乗れる東の端,豊橋まで来てしまった。あとは帰るだけだ。たぶん。


2月26日金曜日,7時前に目覚める。このホテルが安いというのは前に書いたとおりだが,実はもう一つサービスがある。「朝食つき」だというのだ。7時から2階の食堂にご用意してございます,というので行ってみると,バターロール,黒糖パン,バター,ジャム,ゆで卵,バナナ,コーヒーが置いてあった。自由に取って食べろ,とのことなので喜んで食べる。確かパン4つ,ジャム1袋,ゆで卵2個,バナナ2切れ(=1本),コーヒー1杯だったかな。

食べ過ぎ,という意見は却下する。基本的に私は朝食はしっかりとるタイプなのだ。ちなみに,ここに紅茶があれば2〜3杯は飲んでいただろう。私はコーヒーより紅茶が好きなのだ。

お湯の入ったポットは各階に置いてあって,セルフサービスで持っていくことができたので,このお湯と部屋にあった烏龍茶のティーバッグでお茶を作り,持参の魔法瓶に詰める。これで今日1日飲み物には困らない。準備を整えて7時半ごろホテルを出る。

まずは飯田線に乗って,豊川で降りる。これは,名鉄の名古屋本線の国府から豊川稲荷までの支線に乗るためである。JRの豊川と名鉄の豊川稲荷がどれくらい離れているか下調べはしていないが,なんとかなるだろう。

豊川駅に着いて,まずは駅の窓口を物色。飯田線とくればオレンジカードである。2枚に目星をつけて,これください,と言ったら,駅員さんが1枚を指さして「これ,今日発売なんですよ」としきりに宣伝するので,それも買うことにする。個人的にJR東海はあまり好きではないが,豊橋運輸区と伊那松島運輸区(要するに飯田線)だけは気に入っているので,ちょっとでも売り上げに貢献しよう。

でも,よく見たらその指さす先には「2月26日午前10時より発売」と書いてある。まだ8時だ。「いいんですか?」と聞いたら,「さっき出したばかりだから,いいよいいよ!」と気前よく売ってくれた。

そして,名鉄豊川稲荷駅はとなりにあって,迷う心配など何もなかった。国府行の普通で国府まで出て,名古屋本線新岐阜行きの特急に乗った。今日は,欲張ってできるかぎり乗りまくる予定を当初は立てていたが,昨日懲りたのでやめることにした。そう,

欲張ると食べ物に恵まれない。

そこで,まずはこの特急で新岐阜まで行って(この前併用軌道の新岐阜駅前と各務原線新岐阜駅は制覇したが,名古屋本線の新岐阜はまだ利用していないのだ)そのあと,岐阜県内のヒゲのような支線たちを掃除することにした。

まず驚いたことに,行き止まりの新岐阜駅に到着すると,係員が待ち構えていて,先頭車の前の部分に水をかけてブラシでごしごしと掃除し始めたのである。きれいになるのはわかるけど,何もこんなところで洗わなくても。念のために言っておくが,先頭部分だけで側面は洗っていない。側面を洗ったらホームが水浸しになるじゃないか。

急行で笠松まで折り返す。この名前を見てピンと来る人も何人かいるかもしれないが,ちょうど開催日で駅のそばの運動場(じゃないって)で馬が走っていた。

ここから支線。電車は2両。まずは新羽島行き。着いたところは,何を隠そう新幹線岐阜羽島駅の目の前。巨大な新幹線の駅とちっぽけな名鉄の駅。しかし,それ以外にないことがわかったので滞在20分で引き返し,羽島市役所前で下車。

この名前を見たらそれこそ路面電車の駅のような雰囲気があるけれど,ここは路面電車ではない。次の支線の大須行きまで25分ほど時間があるので,近くの郵便局まで行ってみようかと思ったけれど,見事に迷ってたどり着けなかったのでとっとと帰ってきて電車に乗る。やっぱり2両の電車は順調に走って,11:19に大須着。すぐに電車が引き返してゆくと,しーんと静まり返った。

まわりに人家はあるのだが,特にめぼしいものはないので帰りたいのだが,次の列車まで30分。こういうときはとなりの駅まで歩くのが気分も変わってよろしい。けれど,思ったより遠くてあせり,早歩きになってしまった。八神駅の前に郵便局を発見。

ここで,どうせだから説明しておくと,「旅行貯金」という遊びがある。郵便局を見掛けたらいくばくか貯金をして,ふつうなら空白になる「お支払金額」の欄に局名のはんこを押してもらい,ついでに主務者印という赤のはんこも押してもらうのだ。私の場合,1988 年 7 月 14 日に寝屋川郵便局で通帳を作って以来,88年には2局,89年は0局,90年に11局,91年に31局と順調に増えていって,八神駅の前の桑原郵便局が394局目となったのであった。こんなにたくさんの郵便局を訪れたことがない人が世の中の多数を占めると思うけれど,5000局とかいうトンデモない人もいるらしい。それでも,全国に 24000 ほどもある(日々開業や廃業があるので,正確な数は知らない)郵便局すべてを回るなんて不可能だと思うのだが。

さて,話を戻そう。八神駅から羽島市役所前に戻った私は,一計を案じた。羽島市役所のとなりに「江吉良」という駅がある。この路線を走る電車は1時間に6本あり,すべて普通なのに,なぜか江吉良駅だけは通過する電車が多く,江吉良には1時間に2本しか停まらない。あまりに冷遇されている駅なので,行ってみようと思ったのだ。途中には羽島郵便局もあるし,ちょうど昼どきだ。

羽島郵便局はすぐ見つかり,次は昼ごはんを…… と周りを見渡すと,スーパーがあった。惣菜を買ってどこかに座り込んで食べてもいいな,と思ったのだが,3日後に閉店とかで棚はほぼカラ。この案却下。次に周りを見渡したら,非常に大きな餃子の王将があった。ここまできてこれかよ……と思ったが,他にめぼしい店も見つからない。仕方ない,中華料理は野菜もけっこう食べられるからいいよな…… と思った瞬間,すぐ近くに小さな小さな中華料理屋を発見。もちろん,そちらに入る。

メニューはいろいろあったが,日替わり定食は酢豚+サラダ+スープ+ごはん+コーヒーで 650 円だという。決まり。あまり時間に余裕はないのだが,ま,なんとかなるか。

ところが,ちょうどお昼で注文が立て込んでいるせいか,なかなか来ない。来たのは江吉良発車20分前。駅までそんなに距離はないが,道を完全に把握しているわけではないので実質10分余りで食べなければいけないことになった。しかし,酢豚はうまかった。がしかーし。

大ぶりの玉ねぎがごろんと入っていて,がぶっとかじったら中は生だった。しくしくしくしく。

賢明な読者諸兄には容易に理解していただけると思うが,「しくしくしくしく」というのは心の叫びだけでなく,生のタマネギを食べたせいで涙ぐんでいる状態を表している。念のため。

そのあともこわごわタマネギを口にしたが,一切れ以外は泣けてくるほどではなく,無事食べ終え,コーヒーを飲み干して(今日2回目だ。私が1日に2回もコーヒーを飲むなんて,めったにない話だ)慌てて店を出,駆け足で江吉良駅に向かい,無事電車には間に合った。

笠松まで戻り,名古屋本線で新一宮へ移動。また支線に入る。まずは尾西線。30分間隔の運転なのに,29分待ち。なんだかなぁ。玉ノ井で1本落として散策し,新一宮へ戻って尾西線の反対側へ。津島では8分の接続待ちに郵便局を1つ片づけるというムチャをして(津島駅前局が目の前にあったものだから……)弥富に到着。さらに津島線にも乗って,新名古屋に戻るともう17時。タイムリミットまであと2時間余り。

もう1つ,築港線に乗ろうと思う。大江〜東名古屋港間,1駅3分の道のりなのだが,発車時間は

大江駅 東名古屋港行き
7:13 7:23 7:35 7:45 7:55 8:10 8:20 16:14 16:33 17:11 17:25 17:41 18:11 18:27 18:42 19:13 19:27 19:42 20:43

という調子で,決して少なくはないが乗りにくい。ちょうど夕方の運転されている時間帯だから,行ってみよう。

大江駅に着いたのが17:30。先に夕食にする。駅の近くの食堂で煮込みうどん定食を頼む。名古屋で煮込みうどんといったら当然味噌煮込みのこと。食べ終わったのが18:08ごろで,ちょっと期待して駅に駆け足で戻るが階段を登っている途中で電車が出ていくのが見える。仕方なく,ホームでぼーっとして,18:27の電車に乗り,来た道を戻って18:53に新名古屋到着。

あとはもう選択の余地はなく,近鉄名古屋駅で狙いをすまして並び,19:16発鳥羽行き急行の5200系部分に座席を確保。中川で乗り換えるのが正当なれど,座席確保および暇つぶしのため松阪まで行って上本町行き快速急行をつかまえる。こちらももちろん5200系で,22:40に鶴橋に着く。名古屋から鶴橋まで,アーバンライナーならほぼ2時間で着くけれど,特急料金が1850円もかかる。さすがにロングシートで3時間以上かかるなら敬遠するけれど,ずっとクロスシートに乗っていられるなら快適だし,そのうえ松阪からは内職もはかどった,というわけでございました。

結局,南海に 178.6km,近鉄に 426.9km,名鉄に 500km 余り乗りまして,(岐阜市内線とモノレール線の距離がわからない……)マジメに乗車券を購入すると 20110 円のところを 5000 円で満喫したという次第でございました。これにて 放浪記 1999 如月,完結。


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